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吉川 正晃: (株)Human Hub Japan 代表(元:大阪市経済戦略局理事)市のイノベーション行政に全般に携わる。街を一つの共創環境にするHackOsaka運動を展開中。 阪急阪神不動産(株)、(社)日本スタートアップ支援協会、ベンチャー企業等の顧問。経済産業省J-Startup 推薦人、同省の関西ベンチャーサポーターズ会議メンバーも務める。中小企業診断士。
GVH#5を運営する阪急阪神不動産の顧問という立場でありつつ、自身が代表を務める(株)Human Hub Japanの事務所もGVH#5に置いています。
私はもともとIT業界(民間企業)で20数年働き、のちに大阪市でイノベーション行政に携わってきました。最初の仕事はIT業界と言っても機械系メーカーのIT部門でしたので、大企業的な部分と新事業の開発の両方を経験できました。
行政や大企業を経験したことで、GVH#5でもベンチャー起業家と大企業を繋ぐ役割を果たせると考えています。
大阪市の頃から、街を一つの共創環境にするHackOsaka運動を展開しています。街全体をひとつの職場にするというという考え方です。
1980年代中ごろからのIT革命を間近で見た経験が大きいと思います。
IT業界勤務時代のパートナー企業がボストンやシリコンバレーにあったのですが、どんどん会社がなくなるんですね、それくらい業界の流れが速かったので。
そうなると、ひとつの会社で知り合った人が違う会社にいたりする。彼らは会社に就職するのではなく、業界全体に就職するんだと感じました。
また、業界自体が地域に根差しており、彼らは朝ご飯を食べながら情報交換をしているんですね。こんな経験から、街を活性化することで街全体が職場になっていくのではないかと考えるようになりました。
日本国内をマーケットとしてビジネスをするなら、やはり東京が有利になりますが、海外相手にビジネスをするのであれば地方にも大きなチャンスがあります。
私たちは、大阪にしかない技術をベースにしたベンチャーを育てたいと思っています。
大阪・京都・兵庫には大学という技術の集積地があります。技術をベースにすれば世界を相手にすることができます。
大学にはすでに技術がありますから、そこにビジネスの視点を加えることで、産学連携のプロジェクトを確立していきたいと考えています。
世界を相手にすると東京に行く必要がなくなります。例えば京都の技術系メーカーなどはそれを体現しており、現在も京都に本社を構えています。私たちもここから直接海外を見据えています。
GVH#5には英スタートアップ支援大手のレインメイキング社の日本法人があり、海外に直接送り出せるネットワークがあることも大きな強みです。
大阪には、かなりベンチャースピリットがあると思いますね。
歴史を遡ってみても、商人の街として発展してきていますし、革新的な起業家も多く輩出しています。
大阪では、古くは江戸時代から、商人が文化を作ってきました。大阪は江戸幕府の直轄領だったので、武士はごく少数しかおらず、武士のようにルールに従うスタイルではなく、商人による自由闊達な文化が栄えました。
世界初の先物取引も大阪で生まれました。それも江戸時代のことです。この先物取引は、大阪の豪商、淀屋常安が最初に開設した米市場から生まれました。
淀屋常安は「得るよりも先に与えよ。」という言葉を遺しています。
これは、スタートアップ界隈で尊敬されている投資家のブラッド・フェルド(Brad Feld)の”Give before you get.”と同じことですね。
大阪には昔から先行投資によって、信用や市場全体のパイを大きくして自分も浮き上がる共存共栄の考え方があります。大阪人のDNAといえるでしょう。
阪急グループを創業した小林一三もまさにベンチャー起業家です。
鉄道とあわせて沿線の住宅開発、商業施設の開発を行うという考え方も、「共存共栄」のビジネスモデルであり、世界初の考えでした。
また、新経済連盟というIT業界のファウンダーたちが作ったコミュニティがあるのですが、そちらのボードメンバーの出身地を調べたら46%は関西出身でした。
昔から関西にあるベンチャースピリットは今も受け継がれています。
GVH#5には困っている内容に応じて人を紹介したり、知識を提供するという機能があります。
例えば、外食の際、一部の金額を寄付するビジネスモデルを考えていた方には税優遇などの情報を提供しました。
新しい仕事をする際、情報が足りないので、スタッフや他の起業家も含めて、周囲に聞くことができる環境は非常に大きなメリットです。レインメイキング社を通じて、日本での事業展開を考えるスタートアップに、大企業とのコネクションを提供することもします。
また、大阪全体のメンタリティとして、肩書やしきたりにとらわれず、人の本質を見極めるところがあるので、それも海外の方にとっては入りやすいかもしれません。
大阪府、大阪市、堺市、大阪産業局、経済団体、大学等が連携し、グローバル展開するスタートアップが連続的に生まれる環境を大阪に造ろうということで、「大阪スタートアップ・エコシステムコンソーシアム」という組織ができました。
その組織が、京都、ひょうご・神戸の各コンソーシアムと連携して、2020年に国の「グローバル拠点都市」に選定されました。
今後は、国の支援も得ながら、京阪神で連携する動きがさらに強まるでしょう。
また、2025年の万博では未来社会を提案するようなベンチャーを集めたいという動きもあります。
未来のことで言えば、JR大阪駅北側のうめきたエリアが現在再開発中で、2024年にうめきた2期としてオープン予定です。GVH#5はうめきた開発の重要な一員になっています。
うめきたエリアがオープンすると、神戸から30分、京都から30分の位置に大きなイノベーション拠点ができます。このことも関西全体の連携に拍車をかけそうです。
うめきたエリアには、すでに国の研究機関や大学、特許庁、経産省(NEDO)、文科省(JST)などの国の支援機関が1期のオープン時にすでに集まっているので、2期でさらに繋がりを作ろうとしています。
GVH#5は大阪のスタートアップエコシステムを作る中心的な情報が集まっています。街全体、エコシステム全体を理解する上では非常によい場所です。
入会には審査があり、目線の高い人たちを選んでいます。他のメンバーたちと切磋琢磨しながら、ここで大きく成長し、グローバルに展開してほしいと考えています。
GVH#5は他のレンタルオフィスやコワーキングスペースとは違い、物件の賃貸料で利益を出そうとは考えていません。
ここで成長した企業が、地域や応援してくれた企業に利益を還元してくれるような、共存共栄のエコシステムの形成を目標にしています。
日本ではまだまだエンジェル投資家が少なく、ベンチャー企業の成長に時間がかかる傾向があります。それを解決できるエンジェル的な存在が大企業だと思っています。GVH#5は、大企業との繋がりが強いので、大企業にエンジェル的な存在になってもらえるようなお手伝いをしたいと思っています。
好奇心、志、行動力の3つを持った方、情熱を持ってビジネスをスケールさせてくれる方をお待ちしています。